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琉球藍研究所


中島:去年の10月、沖縄に2つの仕事をしに行ったんですけど、

1つ目がこの春スタートした『TUITACI』っていうブランドの展示会で、

もう1つがとある研究所の方に会いに行ったんです。

今までデザイナーであったり、アーティストと呼ばれる、例えばミュージシャンであったりだとか、

色んな方と会ってきたんですけど、いわゆる『研究者』っていう人と会うのは初めてで。

正直どんな感じかなというところだったんですけど、最初会った瞬間にまずその容姿にやられた…うん。

その容姿っていうのは、厳密に言うと『爪』、真っ青だった。


「あぁ、なるほどな」っていう。彼らが研究をしているのは『藍染』で、

それを仕事にしている人っていうのは基本的に爪であったり、

藍を舐めて確かめるっていう人は、唇から顎にかけて真っ青だっていうのを聞いていて。

それでその『本藍』を研究している、『琉球藍研究所』っていうところの人に会って話をしたんですけど、

その人の話を聞いて何に感動したかっていうと、『畑からいく』っていうところ。

単純に染料を作るんじゃなくて、まず畑を自分たちで用意して、染料の元になる植物を植えて、

それを収穫して染料を出して、そこからやっと染めにかかるっていう。


この間のラグにも言えることなんだけど、モノ作りにおいてその段階からやってる人がまだいるんやと。

それに対して『研究所』とまで銘打って本気でやっている。

話をしているうちにどんどん興味を持っていって、今回こういう風なイベントを開催することになって。

皆さんも恐らく見たことがないであろうっていうものをお見せすることが出来ると思うし…、

単純に見たことがないからどうのこうのっていうのもあるんですけど、

それ以上に『気持ち悪く格好良い』っていうのが大きくて。

まぁイベントでは服を染めたりとか、実演のワークショップ的なこともやろうかなとは思ってるんですけど、

まずは彼ら研究者が作った作品、題材にしたものもそうですけど、

その意図であったり、裏にあるものっていうのを感じていただけたらなと思います。

それで今回その研究所の人からレポートというか、

藍染について実際に彼らがやっていることをまとめてもらったものを預かったので、

最後まで読んでいただけると嬉しいです。よろしくお願いします。










・沖縄の誇り、琉球藍の伝統を今後何十年と続く産業に

沖縄で古くから栽培され、藍染の染料として使用されていた琉球藍は、沖縄の染織にとって欠かせない染料です。

その栽培方法は過酷で、良質な藍葉を育てるためには、徹底した栽培管理や技術、

製藍の過程での重労働に耐える強靭な体力と精神力が必要です。

また、発酵状態や製造段階で使用する石灰水の量を見極めるためには長年の経験と熱練を要します。

昔から伝えられてきた方法により生み出された藍を用い、手作業で一枚一枚染めては洗いを丁寧に繰り返すことで、

化学染料では表現することのできない独特の風合いと、一枚一枚表情の違った深みが表れます。

琉球藍は、沖縄のきれいな海の様な深みを持った『文化の色』と言えましょう。

しかし、時代の流れと共に安価に手に入る化学合成インディゴが普及してからは、

手間暇がかかる藍の仕事に従事する人も少なくなってしまいました。









琉球藍の素晴らしさに触れ、この文化を伝えていくために私達にできることは何だろう?

『文化・継承』という言葉は安易に誰しもが使える時代ですが、一から本気で取り組む人はごく僅か。

ものづくりを始めた頃から私の片耳にへばりつく『文化』は私の原点です。

本気で取り組む人がいないのなら、自分でやってみようと思いました。

「デザインで物や空間を作る立場の人間がなぜ今の時代にそれをやるのか?」とよく言われますが、

今だからこそやるべきだと思いましたし、自分の次のステップはここにしかないと信じて邁進しています。

まずは藍の栽培からです。耕作のために土壌を作り、管理技術を試行錯誤です。

作品に繋げるまでにはとても時間がかかりますが、

沖縄の伝統工芸としての琉球藍を伝えていくために、原料から育てることが大切だと考えています。

そして化学染料では表現することのできない独特の風合いや深みを持った沖縄の文化の色を、

私達は『RYUKYU BLUE』と名付けました。




・琉球藍染ができるまで




苗を育てるところからスタートします。







育った苗を畑へ移します。

琉球藍葉は沖縄の品種でありながら直射日光に弱く、とてもデリケートです。

ビニールテントの中で、大袈裟にいうと過保護に管理し育てていきます。







愛情を込めて育てた藍葉。6月の梅雨時期が刈り取りの時期。







何百キロと刈り取った藍葉から染料にできるのはごく僅か。








刈り取った藍葉の漬け込みの準備。かなりの重量になるためこの作業も過酷です。







刈り取った藍葉を水に漬け込み、葉や茎から色素成分が滲み出るのを待ちます。

時間が経つにつれて徐々に色素成分が抽出されるのですが、

気温や水温によって漬け込み時間を調整する必要があります。







藍葉から十分に色素成分を抽出できたら葉を取り除きます。

藍葉を取り除いた直後はとても綺麗なエメラルドグリーンの液が漂っています。







消石灰を水で溶いて投入します。







投入した後は空気を送り込むようにひたすら撹拌します。







抽出した色素成分と空気が結び付くことで徐々に青い液体へと変化し、

青い泡が生まれてきます。







泡が落ち着いたら色素が沈殿するのを待ちます。

撹拌工程を終わらせ、翌日に沈殿した色素成分を回収します。








上澄みを取り除いた後、沈殿した色素成分は布を敷いた容器に移し水分を抜いていきます。

おおよそ一日ほど置けば大半の水分は抜けてくれます。







水分が抜けた状態。







布に色素が張り付いているので回収します。






色素の塊になった琉球藍、植物の葉から抽出した藍の色素『沈殿藍』です。

畑を耕し、植物を育て、刈り取り、手を加えて沈殿藍を集め、糸や布を染め、製品を作り上げるのです。

沈殿藍を作るだけでもかなりの時間を要しますが、

実はこの状態では色素の粒子が糸や布に入り込みづらいため染めることはできません。

きちんと染色を行うためには更に次の工程で、微生物の力を借りた『藍建て』を行う必要があります。




・藍建て





泥藍(沈殿藍)を水につけ、不純物を取り除きながら溶いていきます。

日を置いて藍を沈殿させ、余分なアクを取り除きます。







上澄みの状態を確認し、pH値を測定します。

pHとは『水素イオン濃度』の略称で、藍はアルカリに溶けるため、常に一定のpHをキープしなければいけません。

また、アルカリ性の液の中で繁殖できる菌は案外少ないため、

アルカリを保つことで藍の発酵菌以外の菌の増殖を抑えることができます。

pHが下がると他の菌が増殖しやすくなります。そして他の菌が増殖すると、pHが更に下がってしまいます。

毎回藍の機嫌を伺いながら、沖縄では水飴や泡盛を入れて調子を整えていきます。







沈殿藍が腐敗しない様に毎日、朝夕2回の撹拌が欠かせません。

その際pH値も確認し、消石灰で数値を調整し整えていきます。







日を重ねて少しずつ発酵させていきます。






染料の上澄みにたまったブクブクとした泡は、『藍の華』と呼ばれ、

染料がうまく発酵しているバロメーターの一つ。

藍建てが進んでいるかどうかを判断する目安にします。






作品を染める前に試し染めを行い、発色を確認します。藍は空気に触れると発色します。

発色前は緑がかった色をしていますが、空気に触れることで徐々に藍色へと変化していきます。







いよいよ作品の染めに入っていきます。藍は空気をきちんと抜かないといびつなムラになりやすいため、

手染めで一作品ずつ丁寧に染色していきます。








染めて空気に触れさせ色味を確認します。更にきれいな藍色を出すために何度も染め重ねます。

毎回染めの濃度や仕上がりをチェックしていると、同じ時間、同じ染料の中に入れていても、

湿度や気温、天気が違えば染まり方や色合い、濃度がまったく異なります。

同じものをいくつも作ることのできる化学染料とは違い、藍染は正に『一期一会の色』なのです。








納得のいく色に染色できた段階でしっかりと手洗いをして余分な染料とアクを抜き、

最後にかけ流し(洗い)を行い、更に余分な染料を落としていきます。

この工程も大切であり、所要時間は一日を要します。








その後天日干しで乾かします。








たくさんの時間、労力のかかる染色方法ですが、

琉球藍染めにしかだせない唯一無二の『RYUKYU BLUE』がこうして完成します。




専門的だからこそ、興味深い内容だったのではないでしょうか。

そんな『琉球藍』を用いて染色された作品を、販売いたします。

詳しくは【Event】ページをご確認ください。

『一期一会の色』との出会いをお楽しみに。





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